印鑑がなくても契約は成立します。問題は後で証明できるかです
契約を韓国で結ぶ場合、成立に印鑑は不要ですが、署名か押印があれば、訴訟で私文書が真正なものと推定されます。
ひと目でわかるポイント
- 契約の成立に印鑑は必要か
- 原則として書面・押印は不要
- 真正な成立の推定
- 署名・押印・拇印があるとき(民事訴訟法第358条)
- 電子文書
- 電子的形態であることだけを理由に効力は否定されない
- 電子署名
- 法令または当事者間の約定で選べば署名・押印の効力
- 契印(간인)
- 法的要件ではない。ページ番号・ハッシュ値で代替可能
- 使用印鑑台帳
- 使用日・契約相手・文書名・使用の承認者を記録
このガイドは、韓国で会社として契約を結ぶ外国人の創業者、経営者、社員向けです。法人印鑑を押していない契約書は無効だと考える人が多くいます。そうではありません。韓国の法律は、契約の成立に書面や押印を原則として求めていません。印鑑が関わるのは成立要件ではなく、証明の問題です。
印鑑は成立ではなく証明の問題です
違いが出るのは、紛争になったときです。民事訴訟法(민사소송법)第358条は、私文書は本人または代理人の署名、押印または拇印(무인)があるときは真正なものと推定すると定めています。署名か押印があれば、その文書は本物だと推定され、否定する側がその推定を覆さなければなりません。どちらもなければ推定は働きません。その場合、文書を提出した側が文書の真正な成立(진정성립)を証明しなければなりません。
電子文書と電子署名の位置づけ
電子文書及び電子取引基本法(전자문서 및 전자거래 기본법)第4条第1項は、電子文書は電子的形態であることだけを理由に法的効力を否定されないと定めています。同条第2項は保証に関する規定です。保証人が自己の営業または事業として作成した、保証の意思が表示された電子文書は、民法(민법)第428条の2第1項ただし書にかかわらず、同項本文による書面とみなされます。
電子署名法(전자서명법)第3条は2段階になっています。条文は、署名、署名捺印または記名捺印(서명, 서명날인 또는 기명날인)という表現を使います。
- 第1項:電子署名は、電子的形態であることだけを理由に、署名、署名捺印または記名捺印としての効力を否定されない。
- 第2項:法令の規定または当事者間の約定により、署名、署名捺印または記名捺印の方式として電子署名を選んだ場合、その電子署名は署名、署名捺印または記名捺印としての効力を持つ。
実務の要は第2項の条件です。当事者間の約定で電子署名を選んでいれば、その電子署名は署名・押印としての効力を持ちます。そのため、電子契約を導入する会社は、基本契約や取引約定に電子的方式で締結できるという条項を先に入れておきます。契約ごとに争わないためです。
4つの方式の比較
表には4つの用語が出てきます。法人印鑑(법인 인감)は会社の公式の印鑑で、印鑑証明書(인감증명서)がそれを証明します。使用印鑑(사용인감)は、会社が日常の書類に使う別の印鑑です。使用印鑑届(사용인감계)は、その使用印鑑を会社が承認していることを確認する書類です。
| 方式 | 成立 | 真正な成立の推定 | 実務上の論点 |
|---|---|---|---|
| 法人印鑑の押印+印鑑証明書 | 成立 | 押印により推定が働く | 印鑑証明書の有効期間と委任の範囲 |
| 使用印鑑の押印 | 成立 | 押印により推定が働く | 使用印鑑届で権限の範囲もあわせて示す |
| 自筆の署名 | 成立 | 署名により推定が働く | 筆跡が争われれば鑑定が必要 |
| 電子署名 | 成立 | 約定があれば署名・押印としての効力 | 約定条項と本人確認手段の記録 |
ページの境目にまたがって押す契印(간인)は、法律が求める手続きではありません。複数ページの契約書で、途中のページが差し替えられていないことを示すための慣行です。ページ番号の表示、総ページ数の明記、電子文書のハッシュ値の記録でも同じ目的を果たせます。電子契約に移れば契印という手続き自体がなくなり、完全性の検証がその役割を担います。
何を残しておくべきか
証拠力は印鑑1つではなく、記録の束から生まれます。
- 契約締結権限の根拠(法人登記簿(법인등기부)、委任状、使用印鑑届)
- 署名・押印した人の本人確認に使った手段
- 契約書の最終版が確定した時点の記録
- 最終版と署名版が同一であることを示す資料
- 相手方が契約書を受け取った事実
- 電子契約なら、約定条項、アクセス・認証の記録、文書の完全性情報
最後の項目では、電子契約のほうがかえって有利です。紙の契約では、誰がいつ押したかが記録に残りません。電子契約システムは認証の時刻とアクセス情報を残します。紛争になったときに提出できる資料の量が違います。未払い代金が裁判所の手続きに進んだ場合は、支払命令への異議申立てを参考にしてください。
推定が崩れる場面
第358条の推定は絶対的なものではありません。署名や押印があっても、相手方がその印鑑は盗用された、署名は偽造されたと争うことがあります。そうなると、推定を維持するかどうかが改めて審理の対象になります。
そのため、押印したという事実だけで安心はできません。特に使用印鑑は扱う人が多く、誰がどの権限で押したかがすぐには分かりません。使用印鑑台帳(사용인감 대장)を作り、使用日、契約相手、文書名、使用の承認者を記録してください。そうすれば、この場面で説明ができます。
電子契約では逆に、本人確認の手段そのものが争点になります。携帯電話による本人確認(휴대전화 본인확인)、共同認証書(공동인증서)、事業者認証(사업자 인증)のどれを使ったかで証拠力が変わります。取引規模の大きい契約ほど、認証の強度を高める選択が必要です。
チェックリスト
- 契約の成立と証明を分けて判断します。
- 法律で書面・押印が求められる契約類型かを先に確認します。
- 基本契約に電子的な締結方式に関する約定条項を入れます。
- 電子署名の手段を特定し、当事者間で合意します。
- 法人印鑑と使用印鑑の使用基準を社内規程で定めます。
- 使用印鑑を使うときは、使用印鑑届もあわせて提供します。
- 代理人が締結するときは、委任状の範囲を契約書に合わせます。
- 印鑑証明書の発行日と契約日の間隔を確認します。
- 複数ページの契約書には、ページ番号と総ページ数を表示します。
- 契印を省くと決めた場合は、代わりの手段を文書に残します。
- 修正版をやり取りするときは、最終版の確定時点を記録します。
- 署名済み原本の保管場所と担当者を決めます。
- 相手方が受け取った事実をメールなどで残します。
- 電子契約システムの認証・アクセスログの保存期間を確認します。
- 契約終了後の保存期間と廃棄の時期をあわせて決めます。
よく目にする韓国語の用語
| 用語 | ローマ字表記 | 意味 |
|---|---|---|
| 법인 인감 | beobin ingam | 法人印鑑。会社の公式の印鑑 |
| 인감증명서 | ingam jeungmyeongseo | 印鑑証明書。その印鑑が登録された印鑑であることを証明する書類 |
| 사용인감 | sayong ingam | 使用印鑑。会社が日常の書類に使う別の印鑑 |
| 사용인감계 | sayong ingamgye | 使用印鑑届。使用印鑑を会社が承認していることを確認する書類 |
| 간인 | ganin | 契印。複数ページの文書のページの境目にまたがって押す印 |
| 진정성립 | jinjeong seongnip | 文書の真正な成立。作成者とされる人が実際に作成したこと |
| 무인 | muin | 拇印。署名や押印の代わりに押す指の跡 |
| 전자서명 | jeonja seomyeong | 電子署名 |
| 공동인증서 | gongdong injeungseo | 共同認証書。韓国で本人確認と電子署名に使う電子証明書 |
| 법인등기부 | beobin deunggibu | 法人登記簿。代表者など会社の登記事項を示す公簿 |
根拠
- 民事訴訟法第358条(민사소송법 제358조)
- 電子文書及び電子取引基本法第4条第1項・第2項(전자문서 및 전자거래 기본법 제4조 제1항·제2항)
- 民法第428条の2第1項(민법 제428조의2 제1항)
- 電子署名法第3条第1項・第2項(전자서명법 제3조 제1항·제2항)
このガイドは2026年10月19日時点の一般的なルールを説明したものです。法律・税務の助言ではありません。法令や書式は変わることがあるため、手続きの前に公式サイトを確認するか専門家に相談してください。

